
これからエンジニア採用を設計される方や、現在行っている採用プロセスの抜本的な改善を進めようとされる方にとって、全体設計をどのようにすれば良いのか、なかなかまとまった情報がなくて困っている方も多いのではないでしょうか。
自社の戦略に沿った採用戦略を立てれていないと、以降のプロセスに大きな無駄が生じてしまいますし、せっかく内定まで進んだ候補者がいても、クロージングが最適に行われないことで競合へと流れてしまうことになります。
そこでQiita Jobsでは、2021年6月16日に「エンジニア採用のポイントチェックシートを解説」というタイトルでセミナーを実施しました。これは、エンジニアの中途採用活動を網羅したエンジニア採用マニュアル「エンジニア採用のポイントチェックシート」を元に、元エンジニアであり現在は人事本部キャリア採用グループでエンジニア採用を担当する株式会社LIFULLの木村修平氏が解説していくというものです。本記事では、こちらのセミナー内容についてレポートします。エンジニア採用の進め方全般に悩まれている採用担当者は、ぜひご覧ください。
登壇者プロフィール

木村 修平(きむら しゅうへい)
株式会社LIFULL
人事本部 キャリア採用グループ
2008年中途入社でLIFULL HOME’Sの不動産投資サイト
開発を担当。
その後、賃貸や中古流通マーケットなどLIFULL HOME’Sの様々なサービス開発やグループマネジメント、不動産
投資領域の事業責任者などを務める。
現在は、エンジニア職のマネージャ職位は退き、人事本部に所属しエンジニアを中心としたものづくりのキャリア採用を担当しながら採用広報などにも取り組んでいる。
- エンジニア採用の全体像を理解する
- 選考開始前:戦略・戦術編
- 選考開始前:要件定義編
- 選考開始前:母集団形成とカジュアル面談編
- 選考開始後:書類選考と技術課題編
- 選考開始後:面接対応編
- 選考開始後:オファー・クロージング編
- 各フェーズごとのポイントを理解して最適な全体設計を進めましょう
- セミナー資料ダウンロード
エンジニア採用の全体像を理解する

木村:今回お伝えする資料はエンジニア職の中途採用活動を網羅したマニュアル的な位置付けなので、ぜひ、チェックシートとしてご活用いただければと思います。
なお、ここでいう「エンジニア職」とは、IT・Web界隈におけるソフトウェアエンジニアやアプリケーションエンジニア、その他分類できる多様な職種職能を指します。
皆さんご存知のとおり、ここ数年でエンジニア職の採用は非常にハードルが高くなっているからこそ、採用における競合他社と十分に戦える土俵にあがるため、自社の採用活動の質 向上のチェックシートとしてご活用いただければと思っています。
--宜しくお願いします。それでは、まずは採用活動の全体像から教えてください。木村:採用活動を「選考開始前」と「選考開始後」に分け、それぞれのステップを網羅します。
エンジニア採用のステップは他職種の採用と比較して大きく変わるものではありませんが、売り手優位な市場状況も加味し、全体を設計する必要があります。
具体的には以下のような観点を意識する必要がありそうです。
・求職者への丁寧なアトラクト
・他社に負けない選考スピード
・両者ともに納得感のある選考判断

木村:まず選考開始前についてですが、人事採用計画を前提にした戦略/戦術策定が立てられたら、それをもとに要件定義を行い、各種チャネル等での集客で母集団を形成し、そこからカジュアル面談へと進みましょうということです。要するに、準備がしっかりできているかが、以降の採用活動の成功に関わってきます。この辺りは後ほど詳しくお伝えします。

木村:面接開始後も、フロー自体はどこも似たような流れですね。ここでのポイントは、改善のためのPDCAサイクルをしっかりと回すことと、丁寧で納得感を持てるアプローチによるファン化です。特に合否に関わらず、自社のファンになってもらうための活動であることも 目的の一つにすることが、長期的な視点では効いてくると言えます。
選考開始前:戦略・戦術編

木村:それでは、実際の採用活動計画と選考前活動のチェックシートについて見ていきましょう。
--まずは戦略や戦術の策定ですね。木村:そうですね。3CやSWOTなど、マーケティング手法を用いた現状分析をするようにしましょう。具体的には、自社のブランド力の確認や調査と、市場や競合他社との強み・弱みの比較・検討をして、現状認識を各ステークホルダーへと共通認識化することが大切です。
また、母集団形成や選考活動の仕組み化も必要です。要するに基本ルールの策定もしっかりしましょうということです。
--例えばどういうものがありますか?
木村:例えば母集団形成の経路設計と強化策検討、フロー上のステップ毎のプロセス設計、求人内容の項目テンプレート作成、面接フェーズごとの大枠の質問項目の設計、仕組みのオープンドキュメント化、社内ステークホルダーとのコミュニケーション方法設計などが挙げられます。特に最後の2つは重要ですね。これらができていないと、各ステークホルダーとのコミュニケーション齟齬が発生してしまうでしょう。
--なるほど。
木村:次に、採用プロジェクトの全体設計になります。KPIやOKRなどを活用しての目的・目標の策定と、設計内容の可視化があります。定性だけでなく定量も必要になるでしょう。
--設計内容の可視化としては、どんな方法があるのでしょうか?
木村:例えばPMBOK(Project Management Body of Knowledge)と呼ばれる、プロジェクト管理についての手法を体系的にまとめたものがありまして、そこのプロジェクト憲章などを使うのが良いでしょう。あとは、エンジニア組織や採用部署との、ネゴシエーション含めた協力体制の構築も必要不可欠です。
--ここは多くの方がおっしゃいますね。
木村:そして最後に、エンジニア組織全体としての評価基準の策定です。要するにどういうエンジニアを採用するかの部分です。
現状を踏まえての補強するべきスキルセットやスキルレベルの確認、カルチャーマッチも含めた人物像の共通基準の策定、本当に採用が必要かどうか確認も実施すると良いでしょう。特に最後の部分について、正社員だけが手段ではないので、既存社員の生産性向上やコンバート、業務委託や兼業の受け入れなどの検討もあわせて行うようにしましょう。
選考開始前:要件定義編


木村:次は要件定義です。まずもって大事なことは、作成した求人要件のレビューをしっかりとやりましょうということです。
エンジニアに刺さる魅力がちゃんと書かれているか、直近の業務内容がシンプルに分かりやすく書かれているか、求人部署の率直な課題と採用する人への期待値にブレがないか、できる限り求める要件のレベル感が理解できるかどうかなどがチェックポイントになります。
それができたら、求人ページを作成し、社内外ステークホルダーへと共有することになります。
ちなみに、求人内容の見直しは随時できるよということは、事前にしっかりと共有しておいた方が良いでしょう。一回作ったら終わりではなく、常にチューニングできることを共通認識としてもっておくようにしましょう。
--細かいけれど重要なところですね。
木村:また、利用経路・チャネルと役割分担の設計も並行して行います。紹介エージェント、ダイレクトスカウト、リファラル、イベント集客など、採用経路と採用経路別で利用するサービスチャネルの検討と決定を進めます。またそれにあわせて、採用経路別およびチャネル別での人事と採用部署の役割分担を明示することも大切です。
--以降の運用を行う上で、ここも大事なポイントですね。
木村:最後に、求人ごとの目標設定もしっかりと行いましょう。先ほどは全体の目標設定の話をしましたが、ここでは採用部署の負担を考慮した行動目標を握りましょうということです。
選考開始前:母集団形成とカジュアル面談編

木村:実際の行動である母集団形成では、まずは経路・チャネル別の集客活動が、当然ながら必要になります。例えば紹介エージェントとの関係強化施策が挙げられますね。
--どんな施策が考えられますか?木村:定期的な連絡やミーティング、ブラインドレジュメの実施、説明会の実施、成約キャンペーンなどが考えられるでしょう。
また関係強化施策以外にも、先ほど立てられた行動量目標に基づいたダイレクトスカウト活動の推進や、リファラル促進のための制度設計、社内広報などもありますね。
--リファラル促進も大切ですね。木村:母集団形成についてはもう一つ、自己応募や意向を高めるためのエンジニア組織のブランディングも重要でしょう。非採用活動期間であってもブランディング活動は継続実施すべきです。
具体的には、テックブログの更新やイベントの開催・スポンサード・登壇、社内外メディア露出、SNS活用などが挙げられます。元も子もないかもしれませんが、すべてにおいてはブランド力が大切になるからこそ、ここは強く、そして中長期にかけて推進していくべきでしょう。ここは会社の広報部と相談しながら進めていくと良いです。
--まずはブランド認知なんですね。

木村:母集団形成ができたら、選考前最後に行うべきはカジュアル面談です。ここ、非常に大事です。
まずは面談内容を仕組み化しましょう。目的や意義を、求職者も含める形で共通認識化して、基本的な流れはテンプレ化するようにします。「選考に進捗してもらうこと」ではなく「自社のファンになってもらう」ことを目的や意義とすることが、私としてはオススメです。
これに付随して、事業内容やMVV、制度・福利厚生などをまとめた会社紹介資料も準備すると良いです。
--カジュアル面談で合否が出た、なんてツイートもよく見かけるからこそ、求職者「も」含めた共通認識かが大切なんですね。木村:また、質を向上するためのPDCAサイクル設計も重要です。具体的には、面談官育成を仕組み化したり、無記名での実施後アンケートなどでの現状分析などが、チェック部分のアクションになりますね。
選考開始後:書類選考と技術課題編

木村:ここから実際の選考活動に入っていきます。まずは書類選考ですね。
まずは選考評価の言語化をしっかりとしましょう。ポイントは、評価コメントが詳細かということです。別に長文を書いてくださいということではなく、「スキルがマッチしないため」のような粗い粒度になっていないかどうかということです。ここが詳細でないと、要件の見直しが難しくなり、エージェント経由だとフィードバックも役に立たなくなってしまいます。
後は、言語化された評価が、定めた要件とズレていないかのチェックも行いましょう。さらに、書類上では本来判断できないような要素で判断していないか、年齢や性別、転職回数、価値観、やる気などで判断がなされていないかも確認するようにしましょう。
--書類上で確認できることは限られていますからね。
木村:評価コメントがちゃんとしていると、実績からの改善検討も進めることができるでしょう。具体的には、不定期での評価サマリ分析や、応募者情報から要件の見直し、評価までのスピードの確認などが挙げられます。弊社の場合は、書類選考依頼から3営業日以内に必ずやってください、という形にしています。
--候補者全員に会うのは工数的に難しいからこそ書類選考があると思うのですが、会う・会わないのバランスはどのように考えれば良いのでしょうか?
木村:基本的には、書類上では確認できない観点を実際に面接などで確認することで機会損失を減らすことになると思うので、なるべく多くの候補者に会っていただくスタンスが良いかなと思います。私もなるべく採用担当に、そのようにお伝えしています。--その後は技術課題ですね。タイミングは会社によってまちまちだと思いますが、これ、どのくらいの会社さんがやっているのでしょう?

木村:私のこれまでのヒアリング結果だと、だいたい3〜4割くらいかなという所感です。やらなければいけない類のものではないですが、メリットもあるので、ぜひ導入の検討をしてみましょう。本当に必要なのかどうかを見極めます。
そこで導入することになったら、方法の設計を行い、評価方法と基準を策定します。方法としてはコーディングテストやホワイトボードテスト、オリジナル課題、適正検査などが挙げられますね。
また、評価方法と基準についても、先ほどお伝えしたように、定性と定量の両評価基準をつくることが大事です。方法によっては、正解/不正解だけではなく、プロセスが評価できるものかどうかも大事になります。ここが一番難しいところですね。
その上で、課題内容や実施の有無そのものも含めて、定期的な見直しを行うことも、重要なアクションになります。
選考開始後:面接対応編


木村:次は面接です。
まずは評価の言語化が大切なのですが、その中でも私が経験的に重要だと考えているのが、面接後のリアルタイムフィードバックです。特に聞くだけではなく、壁打ち相手になることによって、言語化支援を一緒に行っていきます。これは次の面接に向けた申し送り事項を作る上でも、貴重な情報になったりします。
また、書類選考と同様に、要件とズレていないかだとか、正確な見極めと公正なやり取りができているかどうかなども重要です。特に、厚生労働省発行の「公正採用の基本について」が守られているかどうかは大事です。
ついで、実績からの改善検討もしましょう。不定期での評価サマリ分析や、面接者の傾向から要件の見直しを行うことが挙げられます。
--ここができていないと、候補者体験が低いものになってしまいますね。木村:あとは、面接官の育成も大切です。面接官は面接のプロでも人事のプロでもないからこそ、質問項目の構造化だったり、具体的なトレーニングや面接レビューなどを定期的に行うことで、私たちが支援していくことが大事かなと思っています。
さらに候補者とのコミュニケーションということで、これも会社によってさまざまなやり方があると思いますが、個人的には、接点はなるべく多い方が良いかなと思っています。面接の後などでのやりとりを通じて、面接では見えなかった部分が見えることもあるので、雑談や挨拶などのちょっとしたやり取りは積極的に行うようにしましょう。
オファー前の転職活動状況や事務的情報、意向度の再確認等のヒアリングタイム実施も、必要なアクションかなと思います。
選考開始後:オファー・クロージング編

木村:これでプロセスとしては最後になります。オファーとクロージングですね。内定辞退などはなるべく避けたいからこそ、ここも重要な部分になります。オファー・クロージング面談は、しっかりと設計するようにしましょう。
具体的には、まずは当然ですが、労働条件を細かく明記した書類を必ず用意して、オファー面談時は部署メンバーやCTOなども参加できるように社内調整を進めましょう。
--そういう方々が参加されると、候補者としても嬉しいですね。木村:コロナ禍では色々と難しい部分はあるかもしれませんが、ぜひ、可能な限り対面で実施すると良いと思います。
ここで一番大事なことは、これまでの選考や人事のヒアリング情報などから、具体的なアトラクトポイントを割り出して、参加者に事前共有することでしょう。どういう魅力付けの話をしてもらうかについては、EVP(Employee Value Proposition)から準備してもらうようにします。
--その人にとっての大事なポイントは何かを考えることが重要、ということですね。木村:この準備ができているかできていないかが、大きな差になると思っています。そのために、面談内のファシリテーションは採用担当が仕切って、部署のメンバーなどに話を振っていくのがスムーズかなと思いますし、私はそのようにしています。
各フェーズごとのポイントを理解して最適な全体設計を進めましょう
今回は「採用担当者が押さえておくべき プログラミング言語から見るスカウト対象の広げ方」というテーマで、プログラミング言語のカテゴリ分けと、その活かし方についてお伝えしました。4象限を理解することで、エンジニア採用におけるスカウト対象を 広げることができることが、お分かりになったのではないでしょうか。同じ象限に属する言語同士が最も習得しやすいので、まずはその中で検索条件を広げてみて、次に対象を広げるのであれば、 横の象限、その次が縦の象限の順に広げていくことがおすすめとなります。
Qiita Jobsでは、今回のような採用担当者に役立つオンラインセミナーを定期開催しております。興味のあるものがあればぜひご参加ください。
取材/文:長岡 武司