共感を生む採用ブランディング実践法 〜エンジニア採用戦略とブランディングセミナーレポート

「採用ブランディングをはじめたいけど、どのようにはじめたらいいかわからない」

エンジニア採用業務を進めるにあたって、上記のようなお悩みをもっている方も少なくないのではないでしょうか。企業としてのビジョンやミッション、存在意義など、企業活動を推進していく上で訴求したいポイントがあるものの、それをうまく採用ブランディングへと昇華できていないケースが多くの企業で見受けられる印象です。

そこでQiita Jobsでは、2021年5月26日・27日の2日間にわたって、「エンジニア採用戦略とブランディングを大解剖」というタイトルで、株式会社エイチームの取り組み事例を紹介・解説するセミナーを実施しました。

本記事では1日目コンテンツとして、株式会社エイチームの社長室 コーポレートPRグループでコーポレートブランディング全般を担当する安藤春香による「共感を生む採用ブランディング実践法」セミナーについてレポートします。採用ブランディングの進め方に悩まれている採用担当者は、ぜひご覧ください。

登壇者プロフィール

安藤 春香(あんどう はるか)
株式会社エイチーム 社長室 コーポレートPRグループ

2011年、リクルートジョブズに新卒入社。求人関係の営業に従事したのちに、2015年にエイチームに入社。人材開発グループで中途採用担当を務め、2018年より社長室 コーポレートPRグループに異動。ブランディング、PRツール制作・管理、社外広報活動、社内広報位活動などの領域を担当している。

株式会社エイチームとは

名古屋に本社を置く総合ITベンチャー企業。主にWebメディアを展開するライフスタイルサポート事業と、スマートデバイス向けのゲームアプリを展開するエンターテインメント事業、そして自転車の通販を展開するEC事業の3軸で、様々なインターネットサービスを提供しています。

広報の役割とブランディング

安藤:そもそも「広報」とは、「パブリック・リレーションズ(Public Relations)」という役割を担う存在です。パブリック・リレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリック(社会)との間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能のこと。つまり、会社と社会をつなぐ結節点として、ステークホルダーに情報や会社の社会的意義を伝えるなどの「関係性構築」をする仕事が、広報のミッションだと言えます。

ちなみにここでいうステークホルダーとは、サービス利用者や取引先、株主などの投資家、従業員やその家族、地域、金融機関など、様々な関係者のことを示します。今回のテーマで言うと採用候補者も含まれるでしょう。

安藤:次に「コーポレート・ブランディング」とは、企業が上述のステークホルダーに共有したい企業の社会的イメージを醸成し、企業価値を向上させる働きかけのことです。以下が、コーポレート・ブランディングで扱われるものの一例となります。

  • 企業が存在する社会目的:ミッション・ビジョン・バリュー
  • コーポレート・アイデンティティ:社名・ロゴ・標語、ブランド
  • ビジュアル・アイデンティティ:シンボル・カラー、タグライン
  • 企業の価値観や組織文化:大切にしている価値観や行動規範

--いろんなステークホルダーによって、微妙に「もってもらいたいイメージ」が違うと思うのですが、そこはどう考えれば良いのでしょうか?

安藤:見られたい姿をステークホルダー別に分けてしまうと、会社の人格がボケてしまい、そこに矛盾が生じてしまいます。矛盾が生じると不信感につながります。なので、会社の人格と、そこから発されるメッセージ・イメージは、すべて一貫させることが大切です。その上で、パブリックとの良好な関係性を構築することが重要になります。

「矛盾のない一貫性あるコーポレート・ブランディング」をしっかりと行うことで、消費者を含めたステークホルダーにとっての中長期的な安心や信頼、将来性などの構築につながります。

採用に関して考えると、全てのステークホルダーは採用候補者になる可能性があるからこそ、この「一貫性」は社内外ともに必要な姿勢だと言えます。

採用担当が「ブランディング」を実践する3つのメリット

ーー採用担当がブランディングを実践することで、どのようなメリットがありますか?

安藤:大きく分けて3つあると思います。

メリット①:採用競合との差別化&採用競争力の強化

1つ目は、採用競合との差別化を図って、採用競争力の強化ができるという点です。背景としては、オウンドメディアによる企業の採用発信の活発化や、発信チャネルの多様化・多角化と採用競争激化、IT企業以外でもエンジニア採用はレッドオーシャンになっていることが考えられます。

具体的な実践内容としては、以下2点が挙げられるでしょう。

  • 採用ブランドを確立して他社との差別化を図り、競争力を強化させる
  • 自社の「特徴」「強み」「弱み」などを整理・発信することで「自社らしさ」を正しく伝える

メリット②:採用市場からの信頼性獲得による持続的な採用活動の実現

2つ目は、中⻑期的な採用ブランディングによって、採用市場からの信頼性獲得と、持続的な採用活動が実現できるという点です。こちらの背景としては、採用競争激化による採用活動の⻑期化・通年化や、新卒採用は単年ではなく毎年継続的に実施する⻑期施策となっていることなどが考えられます。

具体的な実践内容としては、一貫したメッセージを訴求して中⻑期的な採用ブランディングを継続すること。これにより、採用市場からの知名度・認知度・好感度が向上し、より高い信頼性を獲得できるようになると言えます。

メリット③:マッチング精度&ロイヤルティ向上

最後3つ目は、企業ブランドへの信頼性が高まることによる、マッチング精度および ロイヤルティの向上効果です。ブランディングの本質は「記憶との闘い」であり、企業認知度・好感度向上がポジティブなイメージ醸成に影響することが、本メリットの背景だと言えます。

具体的な実践内容としては、以下3点が挙げられるでしょう。

  • ブランド価値を向上させることで採用候補者からの愛着心や信頼性を得る
  • 共通の価値観を有する人材とのマッチング精度を上げて採用活動効率化を図る
  • インターナルブランディングの強化からロイヤルティを向上させることで、 社内の採用協力者の発信力の強化につなげる

採用においてブランディングが重要視される理由

ーーここまでお伝えしたブランディングは、ここ数年で特に、採用シーンで重要視されていますね。

安藤:そうですね。その背景には「Purpose(パーパス:存在意義)」と「Storytelling(ストーリーテリング)」というキーワードがあります。

「Purpose(存在意義)」への共感が大切

安藤:「Purpose」(以下、パーパス)とは、組織や企業の存在理由や存在意義のことです。「何のためにこの会社があり、何を実現するために事業をするのか」を意味するもので、社会とのつながりを強く意識し、 社会における企業の存在意義を明確に宣言する、自分たちらしさが凝縮(価値、特徴、強み、想い、歴史)されたものだと捉えましょう。

--パーパスという言葉は良く聞きますが、なぜ、これが重要なのでしょうか?

安藤:いろいろな要素があるのですが、一つは、これからを担う世代の意識の変化が挙げられます。様々な社会課題と直面している若年層は、仕事や生活をする上で「社会的意義」を重要視していて、社会貢献活動などに非常に意欲的です。こちらの調査結果の通り、企業を選ぶときも、お金やステータスよりも課題解決をしてより社会に貢献する「パーパス・ドリブン」な企業・組織を選ぶ傾向にあります。

画像:ATD国際会議「Motivating Millennials : New Research into Unlocking Their Passions」の資料をもとにエイチームが作成

--なるほど。このあたりは前の世代とはだいぶ違う気がしますね。

安藤:そうなんです。つまり、企業と個人との共通のパーパスが共同体感覚を醸成して共感を生み、それを実現するためのブランドメッセー ジの訴求によってブランドの信頼度が向上するので、従業員としては働く意義が明確に示されて誇りをもち、結果として ロイヤルティやワークエンゲージメントが向上することになります。

共感を呼ぶ「Storytelling(ストーリーテリング)」が大切

安藤:もう一つ、「Storytelling(ストーリーテリング)」とは、物語を語って何かを伝えることです。相手に伝えたい価値や想いを、印象的な体験談やエピソードを交えて語ることで、受け手は物語に感情移入し、共感することになります。

--ちょっと抽象的ですね。何か具体例はありますか?

安藤:例えばこんなデータがあります。99セントの馬の胸像がありまして、それに作家の父親にまつわる話や、70年代のフランスの酔っ払った交換留学生と馬との奇妙な体験談を添えて販売したところ、62.95ドルで売れたのです。つまり、ストーリーの付加によって、モノの価値が60倍以上に高まる結果になったのです。
このように、モノからコトへと人々の価値軸が変わっていることで、感情的なストーリーがモノの近く価値を高めるということになります。私たち自身、さまざまなストーリーを通して物事を理解しているわけで、感情移入によって自身の価値観や経験に共通点を発見し、そこから共感が生まれやすくなっていると言えるでしょう。

以上のように、企業のブランディングではパーパスを明確にして、そこで示された独自の価値観や社会的意義を物語としてストーリーテリングすることで、共感が生まれることになります。これは採用ブランディングにおいても同様の考え方となるわけです。

連続的なフローの中で大事となる、一貫したコミュニケーション

ではどう実践するか。一般的に、採用候補者との初めての接点から終わるまでの関係性をフロー図にしたのが以下です。認知から検討までを「リクルートメントマーケティング」、応募から入社までを「リクルーティング」、そこから先の退職・アルムナイまでを社内広報含めた社員との関係性構築、という一般的な形に分化したものです。

安藤:この連続的なコミュニケーションの中で採用ブランディングを行うにあたっては、先ほどのパーパスとストーリーテリングを一貫して行うことが大切です。全てのプロセスで実践できると、非常に良いと考えています。
さらに、会社を正しく理解した上でのインターナルコミュニケーションを通じて、会社へのロイヤルティを向上させることが、採用活動の進化につながると強く考えています。

エイチームの採用ブランディング活動・事例

ーー具体事例として、エイチームでの活動内容をご紹介をお願いします。

情報・ツールの可視化と優先順位の設置

安藤:エイチームでは、以下の6要素を重点的に発信しているといいます。会社のパーパスを伝えるために重要なポイントをこの6つに絞っているわけですが、これはあくまで「エイチームが発信したい情報」であることがポイントです。

  • 経営理念
  • 企業文化・価値観
  • 歴史・沿革
  • 事業や職種の多様性
  • 社員・組織
  • 人材活用スタンス

一方で同社は、企業への参加要因として「求職者が求めている情報」を、以下の4カテゴリー8項目と定義しています。

安藤:これらを定義した上で、私たちが発進したい情報と求職者から求められている情報の組み合わせについて、優先順位をつけて段階的にいくということをやっています。

安藤:例えばエイチームでは、情報属性とブランディングの方向性という2軸による4象限マトリクスで、以下のように情報発信ツールを分類しています。どのような情報をストックして、どのような手法で届けるのかというプロセスで整理をしているわけです。

エイチームの具体的なアウトプット

次に具体的なアウトプットです。エイチームでは、以下の経営理念を設定しています。

「みんなで幸せになれる会社にすること」
「今から100年続く会社にすること」

--「幸せ」って、これも抽象度が高い言葉ですね。

安藤:おっしゃる通り、理念でよく使われるワードではありますが、人によって捉え方がさまざまになる言葉でもあります。このような抽象度の高いワードに対しては、会社ごとに、その会社が考える定義を据えるべきだと言えます。エイチームでは、「幸せ」の定義を次の3つで設置しています。

  • みんなから必要とされる存在であること
  • 金銭的に裕福であること
  • 幸せにしたい人を幸せにできること

この上で同社では、大切にする価値観およびそのような価値観をもつ人たちのことを「Ateam People(エイチームピープル)」として定義し、8つの主文と副文に分けたスライドで、コーポレートサイトに掲載しています。

安藤:これを前提に同社では、企業文化・価値観をはじめ、福利厚生や人事制度、人材に対するスタンスなど、さまざまな情報を一貫した軸で発信しています。以下は、コーポレートサイトでの発信物の一例となります。

<企業文化・価値観>

設立20周年記念_特設サイト

設立20周年記念対談記事

<福利厚生・人事制度>

【まとめ記事】エイチームの職場環境・福利厚生について

【キャリア支援・研修】個のパフォーマンスを高めながら長期的なキャリア形成を支援するエイチームのキャリア支援・研修をご紹介

<人材に対するスタンス>

【人事インタビュー】2022年卒新卒採用最前線!変化を前向きに捉え適応する人、好奇心を持ちわくわく本気になれる人と働きたい

【人事インタビュー】2021年卒新卒採用は何を見ているの?人事のホンネを聞いてみました!

<エンジニアを意識した発信>

【社員インタビュー】OSS関連活動を支援するエイチームの「OSSポリシー」とは?エンジニアのスキルアップやキャリアの幅を広げ、OSSコミュニティに貢献

【ハッカソン開催】在宅勤務マネジメントの課題を解決せよ!グループ横断でハッカソンを開催

<コロナ禍での働き方>

【対談取材】怒涛の1週間!1,000名を超える社員を在宅勤務に移行した舞台裏

全社目標「エイチームの新しい働き方をつくる!」の実践にむけた取り組み【コロナ禍の新しい働き方】

明日から実践!採用ブランディングのワンポイントアドバイス

ーー最後に、明日からでも実践できる採用ブランディングのアドバイスをお願いします。

ブランドは一日にして成らず

安藤:今日最も伝えたいことの一つは、ブランドは一日にして成らず、ということです。まずは、会社理解を正しく深めるところから始めてみることをおすすめします。コーポレートサイトはもちろん、会社パンフレットや社史など、自社らしさがわかる資料を繰り返し読んで、また同僚や上司、先輩・部下、経営陣との対話を通じてインサイトし、その上で自社のパーパスや大切にしている価値観を深めていきましょう。

発信は、量と質が大事

安藤:2つ目は、とにかく発信を続けることです。インプットとアウトプットを繰り返し行い、採用面接官や採用候補者といった対話相手の反応とフィードバックを継続的にインサイトしていくことで、自信が納得感ある用言や伝え方に定着し、ブランドに輪郭が現れることになります。経営陣や社歴の長い社員、そして広報担当者との対話も、精度の向上につながるでしょう。

募集原稿に魂を込める

安藤:そして最後3つ目は、一つひとつの募集要項に魂を込めること。応募を後押しする最後のコミュニケーションツールは募集原稿なので、採用コミュニケーションにおいて最も手厚くフォローするべきものです。ぜひ、仕事内容や経験・スキル要件のほかに、共通接点の多い情報設計にしましょう。

以上、本セミナーの内容をまとめると、以下の4点が重要ポイントとなります。

中長期的な目線で採用ブランディング力を高めていきましょう

今回は「共感を生む採用ブランディング実践法」というテーマで、前知識としての広報・ブランディングへの正しい理解や、採用担当者が行うべきブランディングのポイント、エイチームの具体的な取り組み内容についてお伝えしました。本記事の内容を理解し、また自社のことを正しく深く理解することで、中長期的な目線での採用ブランディング力が高まっていくでしょう。

Qiita Jobsでは、今回のようなオンラインセミナーイベントを定期開催しております。本テーマ以外にも、GitHubの使い方やスカウト対象の広げ方、P&G流マーケティング思考の採用活動への活かし方など、幅広いテーマで開催しているので、興味のあるものがあればぜひご参加ください。
https://media.jobs.qiita.com/event

取材/文:長岡 武司

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